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仙台高等裁判所 昭和44年(ラ)96号 決定

抗告人

鈴木伴孝

右法定代理人親権者父

鈴木彪

同母

鈴木清子

主文

原審判を取り消す。

抗告人の氏「鈴木」を父母の氏「鈴木」と変更することを許可する。

理由

本件抗告の趣旨は、原審判を取り消し、本件を福島家庭裁判所いわき支部に差し戻すとの裁判を求めるというのであり、その理由は別紙のとおりである。

よつて本件について氏の変更を許可すべきかどうかについて考えるに、現行民法および戸籍法によれば、親子は、養子緑組、婚姻その他の事由により他の氏を称する場合を除き、同一の氏を称し、かつ、同一の戸籍に記載されるのが建前となつているのであるが、これは多くの場合にそうすることが社会生活上便利であり(特に親子が共同生活を営んでいる場合に顕著である。)しかも同時にそれが現在の一般国民感情に合致するからである。民法七九一条一項は、民法および戸籍法が右のような建前をとつたのに対応し、親と子が氏を異にするような事情を生じ、従つて戸籍を異にするに至つた場合において、子の利益のために、それによつて生ずる社会生活上の不便を除去するため、子が親と同一の氏を称し、かつ親と同一戸籍に入る途を開いたものとみることができる。

そこで本件についてみるに、記録中の戸籍謄本二通の記載によると、抗告人(昭和四三年七月二二日生)はその父母ともと氏を同じくしていたところ、抗告人の父母が昭和四四年一〇月一二日鈴木芳、同佐久子夫婦と養子緑組をし、従前の氏「鈴木」を養親「鈴木」の氏に改めたため、抗告人とその父母とが、その戸籍を異にするに至つたことが認められる。右のような場合、抗告人の父母が現在称する「鈴木」なる氏はその養親たる鈴木芳、同佐久子夫婦から承けたものであり、抗告人の称する「鈴木」なる氏は緑組前における抗告人の父母から承けたものであるから、たまたま両者が同一字体同一呼称であつても、法律上の氏としては互いに異るものというべきであり、しかも抗告人とその父母は右のように戸籍を異にしているのであるから、抗告人の年令から考えた場合、そのために将来抗告人にとつて父母との同居その他の社会生活上少からず不便支障が生ずるものと予測されるのである。

よつて本件申立はこれを許可するのが相当であるから家事審判規則一九条二項に則り主文のとおり決定する。(松本晃平 伊藤和男 佐々木泉)

抗告理由〈省略〉

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